宛名のない手紙

 

 

暗闇でなんとかつかまえたものはなんですか?

わたしは子供の小さな足でした。

あのときのわたしにはヘッドフォンだったし

今のあなたにはボロボロになった本かもしれないですね。

本すら持てず、自分の部屋の毛布の温もりだけが優しい日もあって。それで生きながらえれる日は確かにあってよいとおもいます。

何かを握りしめて動かず、動けずいることを責めることなく 明日あなたがすこし楽になれていたらと願うばかりです。

 

今日庭に出たら少し春の匂いがしました。

なんの草花が放つ匂いなのか、わたしにはわからないけれど、確かに春は近いのかもしれません。

 

春の中に確かな不穏さを感じ、遠くを眼差しながら、今手紙を書いています。

 

誰にも、届かないだろう手紙は、どこへ向かうのでしょうね。そんなことはだれにもわからない。

川に流すように、どこかへ、いつか届けばこんな嬉しいことはありません。

 

おやすみなさい。