昼間を真夜中にする

「ああ、もういなくなりたいんだよ、全てが面倒くさくなっちゃって。働くのも、働きなさいよと家族に言われるのも。こんなこと、ここでしか言えないけれど」と彼は言った。

 

昼間のラブホテルの一室で、真夜中みたいに部屋を暗くしてひたすらに抱きしめ合う。それしか営み方を知らない動物のように。

 

冬の乾燥のせいで、髪や皮膚を掻きむしるたびに、彼の体からはふけがパサパサと落ちた。顔も、体もぼろぼろだ。抱きしめると私の黒いニットには、それらが付着する。でもそんなことは気にしない。「大丈夫」と言い聞かせ、背中を撫で続ける。

 

働けなくなってしまったこと、病でのたうち回ること、家族への苛立ち。それらの諸々でわたしたちはとうにぶっ壊れてしまっていること。

ぽつぽつと、真っ暗な空間に漂いながら打ち明けあう。

きっとこんなことは他の誰にも伝えられない。

皮膚を重ねて、体温を感じたからこそ溢れでる言葉たち。「ねぇ。このまま、ふっと世界から退場したいと思ってしまうね」と、彼が言った。それも悪くない。腕の中でただ眠り続けたかった。

 

帰りの車の中で、彼はPAVEMENTの『Brighten the Corners』をかけた。「このパート、かっこいいね」「うん、かっこいい。」「ファースト持ってるよ」「ふぅん」なんてしゃべりながら郊外の街を走った。曇り空がどこまでも、ただどんよりと続いていた。